紙の契約書が抱えるセキュリティリスク
電子契約のセキュリティを検証する前に、まず紙の契約書が抱えるリスクを整理しておきましょう。長年使われてきた紙の契約書にも、実はさまざまなセキュリティリスクがあります。
紛失・盗難のリスク
紙の契約書は物理的に存在するため、紛失や盗難のリスクがあります。郵送中の紛失、オフィス内での紛失、保管場所からの盗難など、さまざまな場面でリスクにさらされています。一度紛失すると、契約内容の確認ができなくなるだけでなく、機密情報が第三者に渡る可能性もあります。
改ざんのリスク
紙の契約書は、物理的に改ざんされる可能性があります。修正液での書き換え、ページの差し替え、署名の偽造など、巧妙に行われれば発見が難しい場合もあります。
災害による消失リスク
火災、水害、地震などの災害により、保管していた契約書が消失するリスクがあります。バックアップを取ることも難しく、一度失われると復元できません。
アクセス管理の困難さ
紙の契約書は、誰がいつ閲覧したかを記録することが困難です。キャビネットに保管していても、鍵を持っている人であれば誰でもアクセスできてしまいます。
経年劣化
長期間保管していると、紙自体が劣化し、文字が読めなくなるリスクがあります。インクの褪色や紙の変質により、重要な契約内容が確認できなくなることもあります。
電子契約のセキュリティを支える技術
電子契約サービスでは、さまざまな技術によってセキュリティを確保しています。主要な技術を解説します。
暗号化技術
通信の暗号化(SSL/TLS)
電子契約サービスとユーザーの間の通信は、SSL/TLSという技術で暗号化されています。これは、オンラインバンキングやECサイトでも使われている標準的な暗号化技術です。通信内容が第三者に傍受されても、暗号化されているため内容を読み取ることはできません。
データの暗号化
契約書データは、サーバーに保存される際にも暗号化されます。万が一サーバーに不正アクセスされても、暗号化されたデータを解読することは極めて困難です。
電子署名技術
電子署名は、公開鍵暗号基盤(PKI)という技術を使用しています。署名者の秘密鍵で署名を行い、公開鍵で検証することで、以下の2点を証明できます。
本人性の証明:署名が確かに本人によって行われたことを証明します。秘密鍵は本人しか持っていないため、第三者がなりすますことはできません。
非改ざん性の証明:署名後に文書が改ざんされていないことを証明します。文書の内容が1文字でも変更されると、署名の検証に失敗するため、改ざんを検知できます。
タイムスタンプ
タイムスタンプは、電子文書がある時点で存在していたことを証明する技術です。第三者機関であるタイムスタンプ局が発行するため、客観的な証拠となります。
タイムスタンプにより、契約書が「いつ」作成され、「その後改ざんされていない」ことを証明できます。電子署名と組み合わせることで、より強固な証拠力を確保できます。
認証技術
メール認証
署名者のメールアドレスに送信されたリンクからのみ署名できる仕組みです。メールアドレスの所有者であることを確認することで、本人性を担保します。
二要素認証
パスワードに加えて、SMSで送信されるワンタイムコードや、認証アプリのコードを入力する仕組みです。パスワードが漏洩しても、第二の認証要素がなければアクセスできないため、セキュリティが強化されます。
電子証明書
認証局が発行する電子証明書を使用して、署名者の身元を厳格に確認する方式です。運転免許証やパスポートのような、デジタル上の身分証明書と考えることができます。
電子契約サービスのセキュリティ対策
電子契約サービス事業者は、以下のようなセキュリティ対策を実施しています。サービスを選定する際の確認ポイントとしても参考にしてください。
データセンターのセキュリティ
物理的セキュリティ
契約書データを保管するデータセンターは、入退室管理、監視カメラ、警備員の配置など、厳重な物理的セキュリティで守られています。
冗長化・バックアップ
データは複数のサーバーに分散して保存され、定期的にバックアップが取られています。一部のサーバーに障害が発生しても、データが失われることはありません。
災害対策
地震や火災に強い設備を備え、複数の地域にデータを分散保管することで、災害によるデータ消失リスクを低減しています。
アクセス制御
ユーザー認証
IDとパスワードによる認証に加え、二要素認証を導入することで、不正アクセスを防止しています。
権限管理
ユーザーごとに閲覧・編集・送信などの権限を細かく設定できます。必要な人だけが必要な契約書にアクセスできるよう、アクセス範囲を制限できます。
IPアドレス制限
特定のIPアドレスからのみアクセスを許可する設定により、社外からの不正アクセスを防止できます。
監査ログ
誰がいつ、どの契約書に対して、どのような操作を行ったかの履歴が自動的に記録されます。不正な操作があった場合に追跡でき、内部統制やコンプライアンスの観点からも重要な機能です。
セキュリティ認証の取得
多くの電子契約サービスは、以下のようなセキュリティ認証を取得しています。
ISO 27001(ISMS):情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格。情報セキュリティを組織的に管理していることを証明します。
SOC2:サービス組織の内部統制に関する監査報告書。セキュリティ、可用性、処理の完全性、機密性、プライバシーに関する基準を満たしていることを証明します。
プライバシーマーク:個人情報の適切な保護措置を講じていることを証明する日本の認証制度です。
紙の契約書と電子契約のセキュリティ比較
紙の契約書と電子契約のセキュリティを比較すると、多くの点で電子契約が優れていることがわかります。
| リスク項目 | 紙の契約書 | 電子契約 |
|---|---|---|
| 紛失 | 物理的な紛失リスクあり | データはクラウドに保管され、紛失リスクが低い |
| 盗難 | 保管場所から盗まれるリスクあり | 暗号化と認証により不正アクセスを防止 |
| 改ざん | 物理的な改ざんが可能で、検知が困難 | 電子署名により改ざんを検知可能 |
| 災害 | 火災・水害で消失するリスクあり | 複数拠点でのバックアップにより消失リスクが低い |
| アクセス管理 | 誰が閲覧したか記録が困難 | アクセスログが自動記録される |
| 経年劣化 | 紙やインクが劣化するリスクあり | デジタルデータは劣化しない |
もちろん、電子契約にも固有のリスクは存在します。しかし、適切なセキュリティ対策を講じた電子契約サービスを利用することで、紙の契約書よりも高いセキュリティを実現できると言えます。
電子契約に固有のリスクと対策
電子契約には、紙の契約書にはない固有のリスクも存在します。これらのリスクと、その対策について解説します。
サイバー攻撃のリスク
電子契約サービスは、サイバー攻撃の標的になる可能性があります。不正アクセス、マルウェア、フィッシングなど、さまざまな攻撃手法が存在します。
対策
- セキュリティ認証を取得しているサービスを選ぶ
- 二要素認証を有効にする
- 定期的にパスワードを変更する
- 不審なメールやリンクに注意する
サービス停止のリスク
電子契約サービスがシステム障害やサービス終了により利用できなくなるリスクがあります。
対策
- 事業継続性や財務基盤が安定したサービスを選ぶ
- サービスレベル契約(SLA)を確認する
- 締結済み契約書のエクスポート機能があるか確認する
- 定期的に契約書データをバックアップする
内部不正のリスク
社内の人間が契約書データを不正に持ち出したり、改ざんしたりするリスクがあります。
対策
- 適切な権限設定を行い、必要最小限のアクセス権限を付与する
- 監査ログを定期的に確認する
- 退職者のアカウントを速やかに無効化する
技術の陳腐化リスク
電子署名やタイムスタンプの技術が将来的に陳腐化し、セキュリティが低下するリスクがあります。
対策
- 長期署名に対応したサービスを選ぶ
- 定期的にタイムスタンプを更新する機能があるか確認する
- サービス事業者が技術の更新に対応しているか確認する
セキュリティを確保するための運用ポイント
電子契約のセキュリティは、サービスの機能だけでなく、運用の仕方にも大きく左右されます。以下のポイントを押さえて運用してください。
パスワード管理の徹底
- 推測されにくい複雑なパスワードを設定する
- 他のサービスと同じパスワードを使い回さない
- 定期的にパスワードを変更する
- パスワードを他人と共有しない
二要素認証の有効化
サービスが二要素認証に対応している場合は、必ず有効にしてください。パスワードが漏洩しても、第二の認証要素がなければ不正アクセスを防げます。
適切な権限設定
全員に管理者権限を付与するのではなく、役割に応じた適切な権限を設定してください。閲覧のみ、送信可能、管理者など、必要最小限の権限を付与することで、リスクを低減できます。
アクセスログの確認
定期的にアクセスログを確認し、不審なアクセスがないかをチェックしてください。特に、通常とは異なる時間帯や場所からのアクセスには注意が必要です。
退職者・異動者への対応
退職者や異動者のアカウントは、速やかに無効化または権限変更を行ってください。放置すると、不正アクセスの温床になる可能性があります。
社内教育の実施
電子契約を利用する社員に対して、セキュリティに関する教育を実施してください。フィッシングメールの見分け方、パスワード管理の重要性、不審な操作を発見した場合の報告方法などを周知しておくことが大切です。
サービス選定時のセキュリティチェックリスト
電子契約サービスを選定する際に確認すべきセキュリティ項目をまとめました。
暗号化
- 通信がSSL/TLSで暗号化されているか
- 保存データが暗号化されているか
認証機能
- 二要素認証に対応しているか
- IPアドレス制限が設定できるか
- シングルサインオン(SSO)に対応しているか
アクセス制御
- ユーザーごとに権限設定ができるか
- グループや部署単位での権限管理ができるか
監査ログ
- 操作履歴が自動記録されるか
- ログの保存期間は十分か
- ログのエクスポートができるか
データ保護
- データセンターの所在地はどこか
- バックアップ体制は整っているか
- 災害対策は講じられているか
セキュリティ認証
- ISO 27001を取得しているか
- SOC2レポートがあるか
- プライバシーマークを取得しているか
事業継続性
- サービスのSLAはどうなっているか
- 契約書データのエクスポートは可能か
- サービス終了時のデータ移行方法は明確か
まとめ
電子契約のセキュリティに不安を感じる方は多いですが、適切なサービスを選び、正しく運用すれば、紙の契約書よりも高いセキュリティを実現できます。
電子契約は、暗号化技術、電子署名、タイムスタンプ、厳格な認証といった複数の技術によって守られています。また、改ざん検知、アクセスログの自動記録、バックアップによる消失防止など、紙の契約書では実現できないセキュリティ機能を備えています。
一方で、サイバー攻撃やサービス停止など、電子契約固有のリスクも存在します。これらのリスクに対しては、セキュリティ認証を取得したサービスの選定、二要素認証の有効化、適切な権限設定、社内教育の実施などで対策することが重要です。
「紙のほうが安心」という感覚は理解できますが、紛失、改ざん、災害、経年劣化といった紙特有のリスクも忘れてはいけません。セキュリティの観点から見ても、電子契約への移行は合理的な選択と言えるでしょう。

